The Little Match Girl in Coworking

この物語は「コワーキング・アドベント・カレンダー2011」に参加しています。

ひどく寒い日でした。雪が降り、辺りもすっかり暗くなり、もう夜…そう、今夜はクリスマスの夜なのです。
けれども、この寒さと暗闇の中、独りぼっちで道を歩く少女がおりました。
頭に何もかぶらず、足に何もはいていません。少女は小さな裸の足で歩いていきました。両足は冷たさのためとても赤く、また青くなっておりました。
少女は古いエプロンの中にたくさんのマッチを入れ、手に一たば持っていました。
日がな一日、誰も少女から何も買いませんでした。 わずか一円だって少女にあげる者はおりませんでした。

寒さと空腹で震えながら、 少女は歩き回りました。
「マッチいりませんか? マッチ買ってください」

ひらひらと舞い降りる雪が少女の長くて金色の髪を覆いました。 その髪は首のまわりに美しくカールして下がっています。
でも、もちろん、少女はそんなことなんか考えていません。どの窓からもロウソクの輝きが広がり、ごちそうのおいしそうな香りがしました。今日はクリスマスイブ。そうです、少女はそのことを考えていたのです。

商店街を少し歩いたところに、降りしきる雪を少しだけしのげそうな建物を見つけた少女は入口に座って小さくなりました。
引き寄せた少女の小さな足は体にぴったりくっつきましたが、少女はどんどん寒くなってきました。けれど、家に帰るなんてできません。マッチはまったく売れていないし、たったの一円も持って帰れないからです。このまま帰ったら、きっとお父さんにぶたれてしまいます。それに家だって寒いんです。大きなひび割れだけは、わらとぼろ切れでふさいでいますが、上にあるものは風が音をたてて吹き込む天井だけなのですから。

少女の小さな両手は冷たさのためにもうかじかんでおりました。ああ! たばの中からマッチを取り出して、壁にこすり付けて指をあたためれば、それがたった一本のマッチでも、少しはほっとできるでしょう。少女は一本取り出しました。
「シュッ!」何という輝きでしょう。何とよく燃えることでしょう。温かく輝く炎で、上に手をかざすとそれはまるでロウソクのようでした。何とすばらしい光。小さな少女には、まるで大きな鉄のストーブの前に実際に座っているようでした。その炎は、まわりに祝福を与えるように燃えました。いっぱいの喜びで満たすように、炎はまわりをあたためます。少女は足ものばしてあたたまろうとします。けれども、小さな炎は消えストーブも消えうせました。残ったのは、手の中の燃え尽きたマッチだけでした。

少女はもう一本壁にこすりました。またマッチは明るく燃え、その明かりが壁にあたったところはヴェールのように透け、建物の中が見えました。
するとどうでしょう、部屋のテーブルの上には見たこともない琥珀色の飲み物がなみなみとつがれたジョッキや不思議な緑色の野菜が沢山入った見たことのない異国の食べ物がおいしそうな湯気を上げ並んでいます。さらに驚いたことには、その部屋には緑の不思議な帽子をかぶった大人の人達が沢山集まり、何とも今まで聞いたことのない不思議な掛け声をかけあっています。
「ビラビラビーラ! パクパクパク!」
そしてその人達があわれな少女のところまでやってきたのです。ちょうどそのときマッチは消え、厚く、冷たく、じめじめした壁だけが残りました。少女はもう一本マッチをともしました。すると今度は、少女は大きな机や沢山の椅子がある不思議な部屋の中に座っていました。
その部屋には先程掛け声をかけあっていた大人の人達が、めいめい不思議な箱のような機械に向かって何かしているのです。どうしてよいか分からずうずくまっていると、やがてその中の一人の人が少女に声をかけました。「Jellyサイコー! で、どんなお仕事をされていらっしゃるんですか? あぁ、マッチを売ってるんですね!」
何と答えて良いか分からず迷っていると、今度は別の人が声をかけてきました。
「道端でただマッチを持って歩いていても寒くて大変なだけで厳しいよねぇ…あぁ、そうだ。『マッチ売りの少女』アプリみたいなものどうかな。iPhoneの画面をスワイプするとマッチに火がついて、その中にいろんな情報や映像が流れるの」
「でもさぁ、ただニュースとか写真がダラダラ流れてるのってあんまり面白くなくない?」
「そうだよねぇ…あっ、その人のFacebookアカウントと連携してさ、友達リストの解析から興味のありそうな情報をパーソナライズして流すってのはいいんじゃない?」
「でもそれって、Flipboardのパクリじゃん! 駄目だヨォ」
「大丈夫、アプリのUIなら任せてくれていいから」
「あっ、じゃあ私がちょっとダークな効果音とかオープニングBGM作ってもいいですよ」
「効果音やBGMはいいけど、ダークなのはちょっとなぁ…^^;」
「アプリだけじゃ、ネットユーザー限定だし露店販売への貢献がかぎられちゃうんじゃないかなぁ…ちょっと萌えキャラ系ののぼり旗なんていいんじゃない? 『私、マッチ売りの少女ですぅ!』みたいな感じで、イカしたキャッチコピーも入ってたりして」
「ちょっとそれヤバくないですかぁ…一歩間違うと歌舞伎町の客引きになっちゃうよ。こんな可愛いお嬢さんを悪の道に引きずり込んじゃダメです! ww」
「いやぁ、例えばさ東北の被災地の瓦礫撤去で出た廃木材を加工した芯で作った『希望の灯り』みたいなマッチだったらいいんじゃない?」
「そっか、マッチと社会貢献って繋がるのか…じゃあ例えば、世界中のみんながアプリ上で1本マッチを買うとレノンの『Happy Xmas (War Is Over) 』が歌えるっていうのはどうかなぁ…それがどんどんオーバーダブされて、クリスマスの朝には世界中で大合唱したハッピー・クリスマスが完成!」
「あっ、それいいね。その時の売上は『マッチ売りの少女のような悲劇を二度と繰り返さないための支援活動資金として寄付します』って感じで・・・」
「おおっ、それはいいんじゃない!」
少女が何と答えて良いか迷っている間に、どんどん部屋の人達が集まってきてワイワイ話し合いをはじめました。少女には、みんなの言っていることはよく分かりませんでしたが、それでもなんとも言えない不思議な安心感と暖かい気持ちが沸き上がって来ました。
やがて、一人の人が見たこともない小さな黒い箱を少女に渡しました。
「今僕達が話してたことをアプリにしてみたんですよ。まずこのアプリを考えるきっかけをくれたお嬢さんに使ってもらえたら嬉しいな (笑)」
その箱の中には1本のマッチがありました。少女は言われた通りマッチの上を細い指ですっとなぞってみました。すると、どうでしょう!
箱の中のマッチはまるで何千もの光が緑の枝の上で燃え、天国の光が地上を照らすような美しさでキラキラと光っています。そして、箱からは今まで聴いたこともない不思議な、けれども何かとても強い願いと祈りの込められた素敵な音楽が流れてきました。
「さっ、この曲に合わせてお嬢さんも歌ってください」

So this is Christmas…

やがて少女の歌声に合わせて部屋中の皆も歌い始めました。さらに不思議なことに、その箱の中からまるで世界中の人が歌っているのでないかと思うような大合唱も流れてきたのです。部屋の人たちも皆少女を囲んで喜んでいます。
「いやぁ、これは素晴らしい! Jellyサイコー! Coworkingサイコー!」
「クリスマスの夜に、小さな可愛いお嬢さんがドロップインしてくれて、それがきっかけでこんなものができちゃうんだから、凄いよね。これぞコワーキングって感じ!」
皆の満足そうに喜ぶ笑顔をみていると少女も何だかとても暖かい気持ちになりました。そして、これまで独りぼっちで生きるしかないと思っていたことが間違いだったと感じたのです。仕事も生き方も考え方も異なる人たち…でもみんなは見えない何かで繋がっている。自分の殻を少しだけ破る勇気さえあればその繋がりの輪に誰でも入っていけるのだということを…そして、少女は思い切って部屋の皆に声をかけました。
「あの、私これからもここに来ていいんですか?」
すると皆は一斉に笑顔で応えました。
「勿論ですよ! コワーキングサイコー!」

手の中の不思議な箱の中では、マッチのたばはさらにまばゆい光を放ち、それは昼の光よりも明るいほどです。そして、とても暖かい世界中の人達の歌声が少女を、そして部屋の中のみんなを包み込んでいきます。

So this is Christmas…
And what have you done
Another year over
A new one just begun
And so this is Christmas
I hope you have fun
The near and the dear ones
The old and the young

もし機会があったら是非あの奇跡が起きた商店街を訪れてみてください。街角には今日もあの少女がいます。しかしそれはもう以前のあわれな少女ではありません。
「パーティーするように仕事する」そんな仲間たちに囲まれている彼女の笑顔は、あの夜手の中で輝いていたマッチの炎と同じくらい、明るく美しく輝き続けています。

 

この物語はフィクションであり、登場する団体・人物などの名称はすべて架空のものです。
但し、創作にあたっては、世田谷区経堂のコワーキングスペース「PAX COWORKING」で私が日々経験し共鳴している様々な体験を参考にしています。
尚、残念ながら「可愛いお嬢さん」は創作の人物ですので PAX COWORKING にはおりません。「それは私よ!」とFacebook上で自薦する人も現れるかもしれませんが、そういう不逞な輩は無視していただいて結構です。あしからず m(_ _)m

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